【神経科学トピックス】
細胞間シグナル伝達分子セマフォリンの新たな役割の発見
〜2つのセマフォリンが逆行性シグナルとして発達期シナプス刈り込みを制御する〜

【神経科学トピックス】
細胞間シグナル伝達分子セマフォリンの新たな役割の発見
〜2つのセマフォリンが逆行性シグナルとして発達期シナプス刈り込みを制御する〜

東京大学大学院医学系研究科 神経生理学 助教 上阪 直史

生後間もない脳には過剰な神経結合(シナプス)が存在しますが、発達の過程で必要なシナプスは強化・維持され、不必要なシナプスは除去され、機能的な神経回路が完成します。この過程は「シナプス刈り込み」と呼ばれ、生後の発達期において、生育環境に適応するように神経回路を最適化する仕組みとされています。これまでの研究により、シナプス後部の神経細胞が、シナプス前部へ必要か不要かを伝えるためのメカニズムとして“逆行性シグナル”の存在が想定されてきましたが、その実体は長い間不明でした。
 この逆行性シグナルを同定するために、本研究では、シナプス刈り込みを定量的に評価できる小脳の登上線維とプルキンエ細胞の間のシナプス結合の生後発達に着目しました。生まれたばかりの動物のプルキンエ細胞には、5本以上の登上線維がプルキンエ細胞の根元に相当する細胞体にシナプスを形成していますが、発達過程において1本の登上線維が選択的に強化されて樹状突起に移行し、細胞体に残存している弱い登上線維は除去されます。
 本研究では、この登上線維—プルキンエ細胞シナプスの刈り込みを制御する逆行性シグナルの分子実体の解明に取り組みました。私たちはまず、シナプス刈り込みが起こっている時期にプルキンエ細胞で発現する分子を明らかにしました。これらの分子の機能を網羅的に調べた結果、セマフォリンファミリーのSema3AあるいはSema7Aがシナプス刈り込みに関与することを示しました。さらに、Sema3Aは登上線維にある受容体のPlexin A4を介して生後8日目から登上線維シナプスを強化・維持し、Sema7Aは登上線維にある受容体のPlexin C1とInteglin B1を介して生後15日目から登上線維シナプスの除去を促進していることを明らかにしました。以上から、2つのセマフォリン分子がシナプス刈り込みの逆行性シグナルとして働き、シナプス刈り込みの異なる過程を制御していることがわかりました。
 セマフォリンは軸索ガイダンスにおいて軸索伸長の反発因子として同定された分子ですが、現在では、神経細胞の極性化、細胞移動、樹状樹状の形成、シナプス形成など神経回路形成の様々な過程で重要な役割を果たすことが明らかにされています。しかしながら、シナプス形成後に起こるシナプス刈り込みの過程にセマフォリンファミリーが関与しているかははっきりわかっていませんでした。今回の研究で、セマフォリン分子が発達期のシナプス刈り込みを制御する逆行性シグナルとしてもはたらいているという新規知見を提供できました。

Naofumi Uesaka, Motokazu Uchigashima, Takayasu Mikuni, Takanobu Nakazawa, Harumi Nakao, Hirokazu Hirai, Atsu Aiba, Masahiko Watanabe and Masanobu Kano:Retrograde semaphorin signaling regulates synapse elimination in developing mouse brain. Science 344: 1020–1023 (2014).

<研究者の声>
今回の研究を開始する時点では、シナプス刈り込みに関わる分子をスクリーニングできる実験系がありませんでした。まず、その実験系の開発に取り組み、ウィルスによるノックダウン法と培養標本を用いたスクリーニング系を確立できました。この系を用い、お宝探しをする感覚で、順次分子をノックダウンし、その効果をみる日々が続きました。幸運にもセマフォリンファミリーに属する2つの分子がシナプス刈り込みに関与することがわかり、今回の論文で発表することできました。研究に専念できるように支えてくれたラボのメンバーと研究を支えてくれた共同研究者の先生方には心より感謝致します。

<略歴>
2006年大阪大学大学院基礎工学研究科博士課程修了、博士(理学)。同年より大阪大学大学院医学系研究科で特任研究員、2008年より日本学術振興会特別研究員 (東京大学大学院医学系研究科)、2010年より東京大学大学院医学系研究科神経生理学教室 助教。

<図説明>
Sema3AとSema7Aがシナプス刈り込みを制御するモデル。
Sema3AとSema7Aは逆行性シグナルとしてシナプス刈り込みの異なる過程を調節している。Sema3Aは生後7日目から登上線維シナプスを強化・維持している。その後、生後15日目よりSema7Aにより細胞体にある登上線維シナプスは除去される。