【神経科学トピックス】
2光子カルシウムイメージング法による運動学習中の大脳皮質運動野・第2/3層および第5a層での神経活動の観察

【神経科学トピックス】
2光子カルシウムイメージング法による運動学習中の大脳皮質運動野・第2/3層および第5a層での神経活動の観察

基礎生物学研究所 光脳回路研究部門
助教 正水 芳人
博士研究員 田中 康裕

 私たちは練習を繰り返すことで、自転車乗り、ピアノ弾きなどの難しいスキルを上達させることができます。このような練習で脳に蓄えられた情報は、「手続き記憶」と呼ばれます。ヒトの脳機能イメージングを用いた研究などから、運動学習中の大脳皮質運動野での活動変化が知られています。しかし、脳機能イメージングでは個々の神経細胞がどのように活動を変化させているか計測できないため、6層構造を持つ大脳皮質運動野の浅層・第2/3層と深層・第5a層で細胞活動変化が異なるのかは、明らかにされていませんでした。
 本研究では、生きた脳の中にある神経細胞内のカルシウムイオン濃度を光として測定することで、複数の神経細胞の活動を単一細胞レベルで一度に把握することができる「2光子カルシウムイメージング法」によって、運動学習中の運動野第2/3層と第5a層での神経活動を明らかにしました。具体的には、前足を使って一定時間レバーを引くと水がもらえる、というげっ歯類のマウスにとって難度の高い運動課題を毎日1時間、2週間連続で行わせて、課題実行中の運動野の神経細胞の活動を記録しました(図A)。そして、これらの細胞活動がどの程度レバーの動き情報を保持しているか(運動情報量)を定量化し、第2/3層では情報量を上げる細胞と下げる細胞の割合が20%程度とほぼ同じで、多細胞集団の持つ運動情報量は2週間、あまり変化しないことを明らかにしました(図B)。一方、第5a層では、情報量を下げる細胞はほとんど存在せず、レバー引き運動の成功率や成功数が一定になる時期である訓練1週間後から、30%の細胞が情報量をゆっくり上げ始め、多細胞集団の持つ運動情報量はレバー引き運動が上達するのに相関して増加することを明らかにしました(図B)。
 本研究は、運動学習の際に大脳皮質運動野において、層に依存した細胞活動変化パターンを見出すことにより、これまでの研究から想定されていた運動野での手続き記憶の実体を細胞・回路レベルで初めて解明したものです。本研究で開発した方法を発展させることで運動学習の回路メカニズムの全容が解明されることが期待されます。また、パーキンソン病などの運動障害をもたらす神経疾患では、運動野を含んだ神経回路に異常のあることが知られており、本研究の成果は、大脳皮質局所神経回路の活動と運動疾患の関連性を明らかにするための重要な一歩となります。

*Masamizu Y., *Tanaka Y.R., Tanaka Y.H., Hira R., Ohkubo F., Kitamura K., Isomura Y., Okada T., and Matsuzaki M. (*equal contribution) Two distinct layer-specific dynamics of cortical ensembles during learning of a motor task. Nature Neuroscience, 17, 987-994, 2014.

<図の説明>
(A)報酬をともなう随意運動課題装置。 (B)円が個々の神経細胞、長方形が神経細胞の集団を表しています。線の太さが運動情報量を、赤は運動情報量が運動学習によって高くなることを、 青は運動情報量が運動学習によって低くなることを表しています。第2/3層では、学習によって情報量を上げる細胞と下げる細胞の割合が20%程度とほぼ同じで、多細胞集団の持つ運動情報量は、学習初期と後期であまり変化しないことを明らかにしました。一方、第5a層では、学習によって、30%の細胞が情報量を上げ、多細胞集団の持つ運動情報量も増加することを明らかにしました。

<研究者の声>
研究開始当初、大脳皮質の深層を長期間観察することは技術的に困難でしたし、多数の細胞活動を目の前にして、全くの手探り状態で解析を始めました。しかし、手術の腕を磨き、高感度の顕微鏡光検出器を用いることで、深層イメージングが可能になり、そうして捉えた神経活動の情報をできるだけ取りこぼしたくないという思いから、神経細胞活動とレバー引き行動の相互情報量推定という解析を進めました。日頃よりお世話になっている研究室の皆様や共同研究者の先生方の助けもあり論文発表に至ることができました。今後は第5a層で情報が保持されるようになるメカニズムや、その意義について詳細を調べていく予定です。

<略歴>
正水 芳人(写真左):2002年、京都薬科大学薬学部卒業。2008年、京都大学大学院医学研究科博士課程修了、医学博士。日本学術振興会特別研究員(PD)を経て、2014年より基礎生物学研究所光脳回路研究部門(松崎政紀教授)助教。田中 康裕(写真右):2006年、京都大学医学部卒業、2010年、京都大学大学院医学研究科博士課程修了。2012年、同医学博士。現在、日本学術振興会特別研究員(PD)。